2013年3月19日火曜日


書評ブログという趣旨からは若干それますが、今回は映画の紹介をさせてください。

児童養護施設の日常を綴ったドキュメンタリー映画『隣る人』


紹介したいのは、『隣る人』という作品です。これは、光の子どもの家という児童養護施設の日常を綴ったドキュメンタリー映画です。ナレーション等は全くなく、淡々と施設内の子どもと児童指導員たちの生活風景が流れる。編集が一切ないからこそ、その映像は心にしみます。


監督 : 刀川和也
企画 : 稲塚由美子
撮影 : 刀川和也、小野さやか、大澤一生
編集 : 辻井潔
構成 : 大澤一生
プロデューサー : 野中章弘、大澤一生
製作・配給 : アジアプレス・インターナショナル
配給協力 : ノンデライコ
宣伝協力 : contrail
宣伝 : プレイタイム

第9回文化庁映画賞・文化記録映画部門大賞
第37回日本カトリック映画賞受賞


この映画は、本当に貴重な作品といえます。それには三つの理由があります。

第一に、そもそも児童養護施設の様子が映画化されたことです。映画のような媒体を通じて、不特定多数に子どもの顔が出ることを施設側から許容されることは、非常に稀なことなのです。多くの児童養護施設では、子どものプライバシー保護のために、子どもの映像はもちろんのこと、子どもの写真を撮ることも禁じられていることがほとんどです。監督の刀川さんは、何度もこの児童養護施設に足を運び、非常に強い信頼関係を施設とつくりあげました。 

なお、この「光の子どもの家」が、映画になるに堪えるほどにとても良い施設であることも、映画化される一因となったのかもしれません。小規模のグループで、児童指導員・保育士と一緒に寝泊まりしながら子どもが育つことができる「恵まれた」施設(とはいえこういった形態の施設では職員への負担が大きいのですが)は、全国で10%にもなりません。(「恵まれた」としたのは、どんなに良い社会的養護環境が提供されていたとしても、親とともに育つことが出来ない子どもが恵まれた環境にあると言うのは憚られるからです。)


本映画が貴重な第二の理由は、子どもや児童指導員・保育士たちのリアルな表情にあります。映像の中の子どもたちの表情や言葉遣いからは、カメラを向けられている人から出てくる「撮られている」という自意識がほとんど感じられません。徹底したリアリティを子どもたちや児童指導員・保育士たちの姿に見いだせるからこそ、私たちはこの映画の世界に入り、そこにいる子どもと大人に心を重ね合わせることができます。このような絵が撮れるようになるまで、監督は児童養護施設に8年間通い続けたそうです。8年間カメラを回し続け、施設にいる人々にとって空気のような存在となれたからこそ、このような作品になれたのでしょう。

そして最後に、本映画が貴重といえるのは、施設の子どもの親との統合という、非常に難しいテーマにも正面から取り組んでいるからです。「虐待する親と虐待される子ども」と聞くと、私たちは親を完全な悪者とし子どもは親を憎んでいると思ってしまいがちです。ですがそれはすごく皮相的な理解で、親は本物の(という言葉の定義も難しいですが)悪人だから子どもを虐待するわけではなく、子どもは虐待を受けても親を慕うのです。親が虐待に至るまでには、様々な複雑に絡み合った要因があります。本映画は、親へのインタビューを通じて、親の複雑な心理状態を描き出しています。

子どもたちが親と再び一緒に暮らせるようになるために


子どもにとってベストなのは、(叶うのであれば)親と再び一緒に暮らせるようになること、すなわち家族の再統合ですが、その実現には幾多の困難が待ち構えています。一緒に暮らしてみようとしても、子どもが問題行動を起こすと、またカーっとなって親が暴力をふるってしまうこともあり、忍耐強く再統合への取組を続けていく必要があります。この映画では、家庭の再統合に向けての取組みをサポートし続ける施設職員の姿が映し出されています。

施設についての本をたくさん読むよりも貴重なことを教えてくれる映画です。ぜひご覧になってみてください。

(本作の鑑賞は、現在のところ、劇場あるいは自主上演というかたちに限られていますが、まさにちょうど今、3/16(土)から3/29(金)までポレポレ東中野でご覧いただけます。ぜひ、ご家族やご友人といっしょに、足を運ばれてください。http://www.mmjp.or.jp/pole2/

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