2013年2月2日土曜日



『青春漂流』(著:立花隆)の衝撃


もうずいぶん昔のことになるけれど、高校生くらいのときに読んだ、立花隆の『青春漂流』の印象は鮮烈だった。高校生の僕には聞いたことのない、もしくは知っていても気にも留めなかったような職業の人が、その人独自の生き方をするうちに、いつかその道の第一人者(もしくはただ一人のプレーヤー)になり、自分の人生を誇り高く歩む様が、生き生きと描かれていた。猿回し師の村崎太郎氏も、そんな若者たちのひとりとして登場していた。彼のエピソードは、ひときわ苦難に満ちたもので、本当に感動的だった。

さて、彼が猿に芸を仕込む方法をまったくのゼロから学ぶなかで、身につけないといけなかった技術が、「根切り」だった。手元に本がないので記憶をたよりに書くと、猿はとても賢いので人の命令を理解させるのはわりと簡単だが、100%その言う通りに従わせるのは、至難の業。そのため、猿の抵抗心を根こそぎ取り除くために行われる通過儀礼が、根切りである。根切りとは、要するに猿に対する徹底的な暴力のことで、それこそ半殺し、不具にする一歩手前まで追い込む。根切りがうまくいくと、これまでの苦労がウソのように従順に芸を覚えるのだそうだ。そのときまでの私は、テレビの人気者だったお猿の次郎くんのユーモラスな芸を無邪気に楽しんでいたので、この記述にはかなりショックを受けた。

大阪市立桜宮高校バスケットボール部の事件のことを考えていて、この「根切り」をふと思い出したのだ。バスケットボールのコーチングから猿の調教を連想できてしまうなんて、悪い冗談としかいえない。おぞましいし、腹がたつ。

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大阪市立桜宮高校バスケットボール部事件から学ぶべきこと


私が考えたいのは、この痛ましい事件から私たちが何を学ぶことができるか、ということである。テレビや新聞の報道にふれ、この教師に対する発作的な怒りを覚えながらも、同時に、この話題もきっとまもなく消費し尽くされて、その頃にはすべて何もなかったように忘れ去られるだろうという醒めた予感もある。でも、それではいけないとおもう。この事件から、私たちひとりひとりが自分のこととして得られる何かがないかぎり、私たちはニュースの消費者でしかなく、いじめの傍観者と大差ないのではないか。

今回の事件を自分のこととして捉えるのは、実はあまり難しくない。教師ではない人でも、勤務先で部下に教育を行っているならば、その立場は教師に通じるものがあるはずだ。また、父親又は母親として、自分の子どもに対する教育に日々取り組んでいる人も多い。私も、もうすぐ生まれる予定の我が子への教育を思い浮かべることができた。

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我が子に苦痛を与えるようなことは、決してしたくない


私が思ったのは、こういうことだ。教育のためであっても、体罰であれ言葉の暴力であれ、我が子に苦痛を与えるようなことは、決してしたくない。暴力によってではなく、言葉による説得を通じて、子どもが自発的に学ぶようにもっていくのが理想だ。自分の子どもには、共感力に優れている自律的な人間に育ってもらいたいからだ。仮に、バスケットボールの優秀なプレイヤーとしてインターハイで優秀な成績をおさめさせることができたとしても、猿回しの猿には決してなってほしくない。

愛情が拳骨にこもっていれば良いという考え方も一方にはあると思うが、それには同意できない。どんなに愛情がこもっていても、子どもが苦痛や恐怖を感じれば、それは虐待でしかない。児童養護施設に入所する子どもの過半数は親から虐待を受けているというが、彼らの親も、もしかしたら愛情をもって躾をしていたつもりなのかもしれない。それでも虐待は虐待で、許されることではないのだ。

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子育てについて、親の学びをサポートする仕組み


ただ、正直に言うと、自分の心に余裕がないとき、根気強く教えても全く効果がみえないとき、子どもがとても大きな過ちを犯したとき、手をあげることをこらえきれる自信は自分にもない。自分が父親になったとき、我が子にどんな教育をすればよいか、知識も経験も足りない。自分の親の世代から学べることも多くなさそうだ。そう考えると、自分の指導力に自信をもてない大人が、暴力と恐怖で武装してしまうのも、無理ないとも思える。

私は、教師から生徒だけではなく、親から子への体罰も、全面的に禁止するべきだと思う。民法で親に与えられている懲戒権は、廃止すべきだ。でも、世の中が変わるためには、それだけでは十分ではないと思う。叩かない子育てについて、親の学びをサポートする仕組みがもっとあってほしい。たとえば、スウェーデンでは30年も前に体罰が禁止されたらしいが、そこではどんな教育が行われたのか、どんな学びが得られるのか、詳しく知りたい。また、親同士が学び合うコミュニティも必要だと思う。

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 皆さんは、この事件からどんな学びを得ていますか?

“子どもの貧困”の現状と今後を考える「Chance Maker Hour」のご案内



私たちLiving in Peaceは、機会の平等を通じて、貧困の削減を目指す事業を運営する認定NPOです。この度、これまでに私たちが知りえた問題の現状と問題解決の仕組み、そしてその今後についてお話する機会「Chance Maker(チャンスメーカー) アワー」を企画しました。

Chance Maker(チャンスメーカー) アワー」では、いわゆる“子どもの貧困”の実態を踏まえたうえで、児童養護施設の現状や、私たちLIP教育プロジェクトが運営している事業内容、パートタイムNPO(他に本業を持つメンバーで運営されるNPO)の具体的な活動、所属メンバーがLIPに入ったきっかけ等についてお話させていただきます。

【こんな方の参加をお待ちしております】
  • “子どもの貧困”に関心のある方
  • 児童養護施設の現状に興味のある方
  • パートタイムNPOの活動に興味のある方
  • Living in Peaceの活動への参加に興味のある方
  • どんなメンバーが活動しているのかに興味のある方
上記以外についても、少人数の会であることを活かし、当日はみなさまとの質疑応答の時間を多く設けていますので、なんでも質問してみてください。

<開催概要>
◆日時:8月16日15:20-16:50 (受付開始時間:15:10)
 ※会場の都合上、受付開始時間後にお越しください。
◆場所:AT-Garage 東京都港区新橋6-18-3 中村ビル
   http://ow.ly/jEkMH
   http://www.facebook.com/atgaragepjt
   ※御成門が一番近いですが、新橋や浜松町/大門からのアクセスも良いです。
◆定員:10名程度
◆参加費:無料
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