2013年4月18日木曜日



   Living in Peace(以下、LIP)の上堀です。

   先週に引き続き、私たちが提携している筑波愛児園の施設長、山口公一先生のインタビューの後編をご紹介します。
   インタビューは2月末、ひな祭りの飾りつけがある筑波愛児園内、先生のお部屋で行いました。





やりがいは、「子どもと分かち合うたくさんのエネルギー」と「子どもの中に私を残せる可能性」

‐ 施設で働くことはとても大変なお仕事だと思うのですが、働いていてよかったと思うこと、やりがいは
    どのようなことですか。


山口先生:
  子どもの大変さを自分のことのように感じ、子どもと愛着関係が築けると、

  子どもからたくさんのエネルギーをもらえるんです。
  例えば、受験の時など、「なんとか一緒に受かろう」と思って一緒に頑張って、
  その子どもが合格すると、「やった!」と思えます。
  その子どもの思いを自分の思いにすることで、
何か問題が解決した時に大きなエネルギーをもらえます。
  実はそれを私は「麻薬」と呼んでいるのですが、そのようなことを一度でも経験すると、
  夜遅かろうが朝早かろうが、子どものために頑張れるんです。
  それがこの仕事の醍醐味で、離れられなくさせるんだと思いますね。

‐ 山口先生だけでなく、先生方皆さんにとっても、それがやりがいなのでしょうね。

山口先生:
  そうですね。
  また私は、この仕事の凄さを「精神的な臓器移植」と、少しかっこ良く呼んでいるのですが、
  ある子どもと出会って、関係を作って、やり取りをしていくと、私が亡くなっても
  その子の中に私が生き続けると思えることがあるんです。
  そんなに数は多くないですが、いくつかはそういう経験があります。
  
  昔、施設の卒業した子どもの結婚式に呼ばれたときのことです。
  そこでその男の子が、「私には父親が2人います」と言うんです。
  「自分を産んでくれた実の父親と、もう一人はそこにいる山口先生です」と。
  「自分なんてどうでもいいんだと思ったときも、山口先生は三日三晩、自分に付き合ってくれた」とか
  「常に期待し続けてくれた」とかね。
  そして、「産んでくれた親は親として、実質的な父親は山口先生だと思っている」と言ってくれました。
  本当の親御さんの前でそんなことを言うなよ、とは思いながらも、ワーっと涙が流れました。
  私が亡くなってもその男の子の中には、ずっと私が生きていってくれると思います。

‐ たくさんの子どものお父さんになるという感じですね。

山口先生:
  全てがこのようにうまくいくわけではありませんが、このような経験が少しでもあるので、
  この仕事の意味はそこにあると感じられるんです。
  ですから職員さんにも、この仕事を自分の生き方と一緒に考えて欲しいと伝えています。
  世の中には、お金をたくさんもらえて、余暇もたくさんある仕事もあり、
  楽しく日々を送る生き方もあります。
  ただ、私たちがいる世界でそれを求めると苦労します。
  お金は少ないし、休みといっても何かと呼び出されますから。
  けれども仕事の中に意味がある、そこに価値を見出す、そういう生き方としてこの仕事を選んで欲しい。
  生き方として選んでもらわないと、その職員さんも苦労するし、

  相手である子どもも苦労すると思うんです。



ある少年が変えた、子どもへの向き合い方

‐ 「精神的な臓器移植」というのはとても印象的な言葉ですが、先生は最初から
   今のようなお考えでやられていらしたのですか。


山口先生:
  いえ、今お話ししたようないいことだけがあったわけではないんです。
  私が、本気で仕事しよう、いい加減なことをしていてはいけない、と思ったのにはきっかけがありました。
  (ここで棚から資料を持ち出し、手渡してくださる。)
  1992年のことだったのですが。

‐ 20年くらい前ですね。

山口先生:
  そうですね。
  ある日、25歳になった卒園生が首をつって亡くなったんです。
  その子は高校の相撲部のキャプテンをやってインターハイにも出ました。
  そして、大学に行くと言うので頑張れといって送り出したんですが、
  彼が25歳になった時に、
  「私はもう生きていても意味が無い」ということを40ページにも渡る遺書に残して、
  亡くなってしまったんです。

  辛かったのは、夏で、安い部屋に住んでいたものですから、遺体が腐って畳の床が抜けて…。
  司法解剖に出した後の部屋を何人かで片づけに行ったのですが、死臭はすごいものでした。
  その後、彼の荷物を持って帰ったとき、ワゴン車のブレーキを踏むたびにその荷物から匂いが
  フワーッと漂ってきました。
  未だに忘れられません。

  彼は4歳ぐらいからずっと施設にいた子でしたが、
  遺書には、私たち職員の至らなさが綿々と綴られていました。
  例えば、「親が面会に来る日は園の門の上に立って朝早くから待っていた。
  父親が来て手をつないで歩くときいつもハイライトの匂いがして、それが僕をとても安心させた。
  でも、それを何回か面会に来た後に父親が会いに来なくなった。
  僕はどうしようもなくなってPTA会費をごまかして切手を買って父親の住所にハガキを出したら、
  宛先不明で戻ってきてしまった。
  その時に、保母さんは「どうして切手代ごまかしたのか」としか言わなかった。
  そんなことを言われても、僕のの頭の中は、父親のことでいっぱいだったのに。」
  そのようなことがずっと書いてありました。

  そこから、この仕事をいい加減にしたら、このようなことになってしまうという想いが生まれました。
  「子どもの気持ちに共感して」などとお話ししてきましたけれど、当時は、
  子どもの気持ちなどあまり考えずに、
  「一生懸命勉強しなさい」「いい成績を取りなさい」「部活を頑張りなさい」
  というようなことを、とにかくやっていました。
  
  本当にやらないといけなかったのは、
  子どもが、生きていていいんだ、生きていてよかった、
  と感じる部分を作ってあげなければいけなかったんですよね。

‐ 辛いお話しですね。そこからどのようにお考えが変わっていったのですか。

山口先生:
  その子のことがあってから、目の前の子どものことだけでなく、
  子どもと親との関係をなんとかすることも私たちの仕事だと考えるようになりました。
  
  施設に入ると親との関係が完全に切られるわけですから、一度切れたものをつないでいく、
  ねじれたものを元に戻していく、ということが安心の原点なんですね。
  関係を結べる人が身近に居なければ、そのような人を探し出して糸を結んでやる、
  もしくは、自分自身がそういう存在になる、ということです。

  そして、今で言うファミリーソーシャルワークの先駆けのようなことを始めました。
  そのときに勉強させていただいたのが、つい最近『隣る人』という映画になった施設の菅原さんです。

‐ あの映画は、Living in Peaceのメンバーの多くも観ました。
    子どもと職員さんが、まるで親子のような関係性を築き上げていて、すごい施設ですよね。


山口先生:
  あそこに何回か寄せていただいて、その関係のいかに凄いかを勉強することができました。

(<後編②>へ続きます。)

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“子どもの貧困”の現状と今後を考える「Chance Maker Hour」のご案内

私たちLiving in Peaceは、機会の平等を通じて、貧困の削減を目指す事業を運営する認定NPOです。この度、これまでに私たちが知りえた問題の現状と問題解決の仕組み、そしてその今後についてお話する機会「Chance Maker(チャンスメーカー) アワー」を企画しました。

Chance Maker(チャンスメーカー) アワー」では、いわゆる“子どもの貧困”の実態を踏まえたうえで、児童養護施設の現状や、私たちLIP教育プロジェクトが運営している事業内容、パートタイムNPO(他に本業を持つメンバーで運営されるNPO)の具体的な活動、所属メンバーがLIPに入ったきっかけ等についてお話させていただきます。

【こんな方の参加をお待ちしております】
“子どもの貧困”に関心のある方
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パートタイムNPOの活動に興味のある方
Living in Peaceの活動への参加に興味のある方
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◆日時:8月16日15:20-16:50 (受付開始時間:15:10)
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