2013年6月1日土曜日



児童養護施設出身者が、経済的困窮に陥ることは珍しくありません。
東京都の最近の調査によれば、都内児童養護施設出身者の生活保護受給率は全国平均の3.3倍にも達しています。この調査は連絡が取れた卒園者のみを調査対象としているため、実際の数字は更に高いでしょう。

貧困の問題を解決するためには、そこから抜け出すためにある制度の実態を理解する必要がありますが、残念なことに、日本の社会保障制度の多くは無知や誤解にさらされています。

とくに生活保護制度については、「もらいすぎ」とか「外国人が税金を食い物にしている」とか「より大変な人はいるのに既得権を当たり前のように享受している」といった意見を頻繁に耳にします。
そうかといえば若年層の経済的困窮を捉えて、「苦しい雇われ仕事なんてやめて、みんなで生活保護を受給しよう」と主張する著作も多いようですし、また、保護費を支給する自治体への非難や批判・非難も目立ちます。果たしてこれらは本当に正しいのでしょうか?

今回からの連載では、月に1回のペースで半年間、生活保護制度について考えていきたいと思います。

筆者が過去に地方自治体で福祉行政に関わり、生活保護の担当課とも頻繁にやり取りをした経験を生かし、生活保護制度の実体を可能な限り現実に忠実に描きたいと思います。

その初回として以下では、「生活保護って何?何のためにあるの?」という点をまず確認していきましょう。

     1.いつでも、どこでも、誰でも
     2.最後のセイフティネット
     3.欠陥の制度?


1.いつでも、どこでも、誰でも

生活保護は、誰でも(外国人でも)、どこに住んでいても(住所が無くても)、いつでも、申請することができます。申請の理由は問われません。

「外国人も?」 と疑問に思った方もいらっしゃるかもしれませんが、はい、外国人にも受給資格があります。ただこの点については、じつは非常に微妙な行政的措置が背景にあるのです。

それはつまり外国人を支給対象とする根拠が、日本国民を対象者とする生活保護法ではなく、「厚生労働省担当局長通知」だというところです。局長通知による特例措置という位置づけなのです。法でも、政令でも、省令でも、事務次官通知でもなく、局長通知だというところに、この措置の微妙さが伺えます。

この点をさらに深入りすることはしませんが、対象者を国籍ではなく国土で区切っているのは、生活保護が国内の貧困すべてに対応しようとしているからだと理解できるのではないかと思います。

また次の、住所が無くても申請できるというのも重要な規定です。ホームレスの方でも、いわゆるネットカフェ難民と呼ばれる方でも、申請は妨げられません。


2.最後のセイフティネット

一言で生活保護を表現すれば、「他の全ての社会保障制度によるサポートでも、憲法25条が規定する『最低限度の生活』を実現できない人々を、経済的貧困からすくい上げるための制度」です。社会保障として生活保護より先は無いという意味で、「最後のセイフティネット」とも言われます。

これは、建て前でも何でもありません。厳然とした事実です。すなわち、生活保護でも救うことができない貧困に、国家が助力できること(つまり公務員に頼れること)は、今のところないということです。

「しかし保護額水準を下回る生活の人はごまんといるではないか」という声が聞こえてきそうですが、これは生活保護が申請主義、つまり申請を待って初めて支給可否の判断基準に照らされるという特徴を持っているからです。そのため、潜在的な受給資格者への漏れのない支給は、非常に難しい問題です。

もちろんセイフティネットなのですから、申請すること自体に後ろめたい点は一切ありません。くわえて、保護額レベルの収入で何とか頑張られている方を尊重しつつも、受給している方を貶めてよい理由はありません。


3.欠陥の制度?

さて、保護額水準より厳しい生活をされている方は大勢だと書きましたが、まさにそうであるがゆえに、この制度は可能な限りあらゆる人をすくい上げるための仕組みを備えています。それは、生活保護制度の使命でもあります。

そして、ある種残念なことに、この仕組みが制度における多くの”あいまいさ”や”わかりにくさ”を生んでいるのです。

生活保護の不完全さと複雑さを指摘して、ベーシックインカムのようなより明快で単純な制度への移行を主張する意見があります。しかし私は、ベーシックインカム制度をいくらうまく設計しても、現在生活保護制度がかかえる複雑さを解消できるとは思いません。なぜならこの複雑さは、なるべく多くの「各生活者固有の事情」を汲もうという意識に基づくものだからです。

一般に保護行政は、以下のような過程を繰り返します。

①最大公約数的な規定を、原則として設定する
②原則からこぼれおちる例を収集する
③例外規定を一つ一つ設ける
④多数の例外により原則が維持できなくなってはじめて、当初の原則を修正する

日本の行政立法というのは往々にして、こうして複雑になってきます。
しかし見方を変えればこれは、「画一的な原則から外れる事例を無視しない」という姿勢でもあるのです。仮にベーシックインカムが導入されたとしても、この姿勢は容易には変わらないでしょうし、私は、これ自体は悪くないと思っています。対象が少数だということを理由に、例外規定を設けようとしない態度もあるのですから。

とはいうものの、過度な複雑さが見えない抜け道を作ったり、利用者からみて理解しにくいものになったりということも起こります。双方を解決できればと誰もが思っていますが、それは容易ではありません。

ここまで来ると、公的部門を単純に批判することで状況が改善しそうにはないな、とご理解いただけるのではないでしょうか。


以上、すこし長くなりましたが、生活保護の制度趣旨を簡単にご解説しました。次回からは、具体的なお話を交えながら、さらに制度の仕組みを解きほぐしていきたいと思います。


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