2013年10月14日月曜日

【モメント】

『半沢直樹』の最終回を見た。
僕はテレビを見ない。ニュースも見ない。
だから、大和田常務が笑ってるのか泣いてるのかわからない顔を引きつらせているのを見たのも、
半沢がこれまた泣いてるのか笑ってるのか分からない顔でそれを見下ろしているのを見たのも、
ただの偶然だったのだ。

気になったので少し調べてみた。
このお話の主人公・半沢は銀行マンだ。中小企業の経営者だった父を支えた信金では「なく」、
父を見捨て自殺に追いやったメガバンクの内部に自ら入り込む。
決め台詞は『10倍返しだ!』
跋扈する百鬼夜行を正論で叩き伏せるその姿は、
さしずめ日本人の大好きな社会派水戸黄門系ヒーローといったところか。

個人的に興味を惹かれたのは、半沢が選んだ戦場が、どうして信金ではなくてメガバンクだったのかということだ。
それを考えた時、頭の中に一つのアナロジーが浮かんだ。それは「透明なパイプ」である。



今の時代には自由がない?


僕は人よりはだいぶ自由に生きてきた、と最近まで本気で思っていた。
小学校を出て、中学校を出て、高校を出て、浪人して、大学を出て、就職して、転職して、クビになり、再就職した。
見ての通り、どこにも面白い点はない。
皆さんは、自分の人生をどれだけ自由だと思っているだろうか?
今の時代には自由がない? 自由に生きたいけれども人間関係でつまづくのが怖い?
それとも、昔と比べると、今は生き方を何でも選べて素晴らしい時代だろうか?

私たちはみな、自由な世界を求めている。
僕はそう思い続けてきた。
だから、誰もが生き方を自由に選べる世界、誰もが自分の好きなことを追求できる世界が
あるべき世界だと思ってきたし、今でもそう思っている。
誰にでも平等にチャレンジがある世の中を夢見て活動してきたりもした。

しかし最近、愛する彼女にこう言われて少しショックだった。
「自分が楽しいからって、自由を押し付けないでよ。」
「私は、何も無かった日がいい一日。
今日は何事もなく無事に過ごせた、と思って安心するのが私にとってのいい日なんだから」
世は並べて事もなし。
チャレンジ至上主義は疲れる。

自由のリスク


彼女は、優しい人だが、野心がない。
つまらないな、と思う自分がいた。

でも、少し考えてみると、今ある状況をそのまま受け入れることだって自由だ。
変化を望むことも、現状維持を望むことも、同じように自由だ。選択肢としての地位に差など無い。

人生でギャンブルしたがる人もいれば、着実にコインを増やしたい人もいる。当たり前のことだ。
自由には棘がある。自由のもたらすリターンもリスクも、等しく味わいつくす権利が私たちにはある。
どれだけリスクを取るのかはそれぞれ好き嫌いがあっていい。
だから、自分で選びましょう。僕はリスクが好きなほうだけど。
その日はそれで納得した気になった。

人の自由と“透明なパイプ”


ところが、今度は自分が本当に自由に生きているのか、という疑念にとらわれる羽目になった。
そもそも僕の想像力なんて、最高にクリエイティブ!
とか自分で思っても、ありきたりなアイデアを少しはみ出る程度のものだ。
お利口に講義に出席して単位を貰うなんて本当の学び方じゃない、
とか言って昼間から酒を飲むとか、大学を卒業したら大企業なんぞには入らずに起業するんだ、
とかそんな程度のものだ。
(大企業勤めも起業もしていないが)

「全然違う」生き方なんて、多分誰も選びようが無い。
誰だっていつだって、他人を見ながら生きているだけだ。
ああいう風にはなりたくないな、とか、別に大したことないだろ、とか思っても、
結局ヨコをチラ見しながら、自分の位置を確かめている。
そして、お互いを隔てる距離の近さに、こっそり胸をなでおろしている。

まるで、一方向にひたすら伸びている「透明なパイプ」。
透明だから、中から外は360°見渡せる。
あんな世界もあるんだ、こんな生き方もあるんだ、なんて思いながら、パイプの中を進んでいけば、
結局同じ場所にしか着かない。
パイプをぶっ壊してまで外に出ようなんて、敢えてそうしようとは思わない。

きっと、半沢もそうだったのだと思う。
復讐心に囚われるということは、復讐すべき相手が敷いたパイプの中を進むことだ。
半沢のパイプは、父親が自殺した時に一度は切れていたのだろう。
だが、彼は切れたパイプを逆戻りする道を選んだ。
選んだというか、そっちにしか道は無いと思ったのかもしれない。

自由なんて、本当は嘘だ。
僕はただ、パイプの中を行きたいのだ。
僕は本当は、別に自由じゃなくていい。
こう書いてみて、今はなぜか幸福だ。

透明なパイプの中を進もう。他人の人生をチラチラ見ながら。どこまでもどこまでも。

0 コメント:

コメントを投稿

  • RSS
  • Facebook
  • Twitter