2013年8月17日土曜日

自分の貧困との出会いなんて、衆目に晒すのは気が引ける。
なんともしょうもないものだからだ。
厭味に聞こえるだけかもしれないが、僕は経済的に困窮した生活とは
これまで縁がなかったし、自分の内側から流れ出た感情の発露に絆されて
貧困問題に取り組むことを決めた、なんてこともない。
それでも敢えて書こうと思うのは、たぶん多くの人にとって
貧困との出会いなんて見た目ほど大したことじゃないし、
そこで英雄的な身震いを経験しなければ貧困に取り組むことと無縁であるわけでもない、
ということを伝えたいからだ。
あなたは、TVのなんとかスペシャルで取り上げられた”生活保護需給の衝撃―現代の貧困”
とかなんとか名づけられたプログラムを見て、「社会の闇だ!」「こんな日本に誰がした」と
憤らなければならない…理由はない。
あながた行動する理由など、あなたの生活の中のどこにでも転がっているのだ。
きっと。



大学時代


僕は大学に入ったばかりの頃、学生寮で生活していた。
経済的に豊かでない学生たちの厚生を目的として設立されたその寮は、
食事はつかないものの、寄宿料が月額2500円(にまんごせんえんの間違い、ではない)
という破格の待遇で生活させてくれる場所だった。

大学の寮というもののご他聞にもれず、色々と無茶なことをした。
そんな日々の中のある日、僕は、一つの話を小耳に挟んだ。
寮から歩いて5分くらいのところにあるスーパーが、賞味期限が切れた食品を
毎週決まった日にゴミに出すというのだ。
コンビニでアルバイトしている学生が全寮放送で「賞味期限切れの弁当が余ってます」
と呼びかけようものなら、全力ダッシュの轟きが建物を揺さぶるような場所だ。
同期入寮の仲良しを連れて早速その夜行ってみた。

スーパーに着いて裏手にまわる。
ビニール袋が10ほど置いてあって、中には鮮魚なのかなんなのか、
イカ臭いにおいを放っているものもある。
いくつかの袋を漁ってみると、確かにあった。
パックに入った羊羹が5つ、みたらし団子が3ケース。
賞味期限は1日切れているだけだ。
満足して持って帰り、相部屋のみんなで食べた。

貧困は目の前に


さて、味を占めた僕たちは、その後数回同じようなゴミ漁りを繰り返し、
ある夜、招かれざるお客様と出会うことになった。
それは、地元のホームレス達だった。
寮の近くには川が流れており、夏にはホームレスの人たちが気持ち良さそうに
水浴びしている姿を何度か見たことを思いだす。
あの人たちだ。川原にダンボールで家を作って暮らしている、ホームレスの人たち。

辺りが暗くて気づかなかったのだ。すぐ近くにいる。全身が硬直した。
闇の中に5,6人の男が屹立して微動だにしない。
僕はビビりまくっていた。
いきなりぶん殴られるんじゃないか? 
もしかしたら拉致されて、播磨灘に沈められるのか?
これってもしかして、恥とか関係なくダッシュして逃げたほうがよかないか? 

恐る恐る僕が見たのは、こちらをじっと見る目だった。
心なしか少し怯えているようにも見えた。
リーダーらしき彼はこう言った。
「ここにあるものは、このあたりに住んでいる奴らがちゃんと分け合って取っている。
そうじゃないと喧嘩になるだろ?
だからちゃんとルールがある。
出町柳の電柱で待ち合わせて、時間も合わせて来てる。
アンちゃんたちは親から金貰ってんだろ?
だったらこんなことしちゃいけないよ」

想像していなかった優しい口調に面食らった僕達は、
「ああ。すいません…」と一言だけ言って、そのまま寮への帰途に着いた。
その時の僕は、大変なことにならなくて良かったと思うだけだった。
もう二度と行くまいと何度か心の中で唱えた。

これが、僕の貧困との最初の出会い、ヰタ・ヒンコナリスである。
あまりにもくだらなくて、がっかりしている読者の嘆息が聞こえるようだ。
でも、これが僕にとっての現実の始まりだった。

ホームレスの人々の出遭いとはじまり


あとから聞いたのだが、スーパー側はホームレス達が定期的に賞味期限切れ食品を
取りに来るのを知っているので、わざわざ見やすい袋に入れて、時には丁寧に包装までするらしい。
あるパン屋さんの話によると、そうしないとゴミを散らかされたりして逆に困るのだそうだ。
時には幕の内弁当をいくつか包むこともあるのだと聞かされた。

その後、なぜかホームレスの人を寮の部屋に泊めたり、お喋りを少しするようになった僕は、
3つのことを知った。
一つは、ホームレスのおじさんたちは意外と怖くないこと、
一つは、社会の底辺(と当時は思っていた)とか言われる人たちでも、
集団をコントロールするための術を持ち、上下関係と権力関係、
それに紛うことなき自尊心と自負心を持っていること、
最後に、貧困の中にいる人を食わせるシステムが福祉制度の外側で自然発生的に生まれ、
存続しているという事実だった。

あれから11年。
今僕は特定の子どもたちの貧困を解消・軽減するための活動に取り組んでいる。
思い出すと恥ずかしいだけなのに、なぜかおじさんの目の中にあった優しさだけはまだ覚えている。




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