2013年5月20日月曜日


4月に刊行された慎泰俊の最新刊「正しい判断は、最初の3秒で決まる」をご紹介します。

最初にお断りしますと、本エントリーの執筆者である飯田は、LIPの一員として、そして友人として、本書の執筆者と近しい立場にありますので、本エントリーは、ちょうちん記事とも、内輪で盛り上がっているだけとも受け取れます。もとよりヨイショするつもりはありませんが、彼に対する個人的な好感情をベースにして本書を読んでいますので、偏った人間が書いたものだということを念頭において、この先を読み進めていただければと思います。

さて、慎の本業は多忙なビジネスマンですが、そのかたわらで非常に精力的に執筆活動をしています。常々、よくやるなあと思いながら見守っておりますが、この本は、彼のこれまでの作品の中でも特に力が入っています(おそらく、「働きながら、社会を変える。」と同じくらい)。全編及び細部にわたって緊張感があふれており、ビジネスマンが空き時間で書いたとはちょっと思えません。自分が書きたいことを自分のために書いているので、集中力が違うようです。甲子園の高校生が、プロに比べたら稚拙な技術にもかかわらず、今この瞬間だけの輝きで私たちを強く魅了するように、彼の魂のこもった言葉の数々は、私に鮮烈な印象を与えました。


本書の最も特徴的な点は、
成果をあげる前の、まだ何者でもない人間が、これから成し遂げることの秘訣について書くというギャンブルをしていることです。ビジネスマンが書いた本はゴマンとありますが、成功と執筆の順序が逆転した本はそうそうないと思います。著者は、その理由について、「後だしじゃんけんはしたくない」と簡潔な説明を与えています。私は、革命家としての彼の自負がそうさせていると理解しています。この本のなかでも、世界を変えたいという野望を隠していません。これは、手段は暴力ではないにしても革命を志向しているということではないでしょうか。革命家は、闘争を開始する前の石ころのような小さな存在のときにこそ、自分の大それた野望を表明したいはず。その後、挫折するかもしれないが、それは今の彼には関係ない。おそらく、そんな気持ちなのだろうと思います。

そして、このような本書の特質は、読者層に対する制約となる危険もはらんでいるように思えます。つまり、本書の読者が、著者と同じように、本気で世界を変えたいと思っている人に設定されているのであれば、大部分の読者は自分には関係ないと思って引いてしまう可能性があります。しかし、そう思ったみなさんは、ちょっと待ってほしいのです。世界を変えたいという思いには、それがもたらすインパクトや規模や名声の大きさには関係なく、ひとりひとりがそれぞれの持ち場で一隅を照らせば、それは世界を変えることに他なりません。私も、自分の家族や大切な人たちのために、自分のできる範囲で小さな変化を起こしたいと思っています。そんな思いを持ちつつも何をどう取り組んだらよいか迷っているような人のために、この本は生まれたのだと思いたい。

さて、本書の最大のテーマは、直感です。著者は、直感を「最善の判断を導くもの」と定義していますが、私にはこの定義はあまりしっくりきませんでした。個人の経験として、直感に素直に従った結果、大きな間違いをおかしたことが山のようにあったからです。ただ、会心の判断が下せたと思ったとき、直感の導きだったと思えることが多いのもまた確かです。つまり、「正しい判断を下したいときに、最も頼りになるのは直感である」と言われたら、納得できます。人の判断の方法として、最もましなもの、信頼に値するもの、それが直感なのだと理解しました。(というか、それ以外の判断方法を、ニンゲンは持ち合わせているのだろうか…)

様々な意思決定について最善の判断を導くような直感を身につけることは、三十代も半ばを過ぎた今の私には、さすがに荷が重く感じられます。そもそも、人が何か新しい認知を獲得するとき、脳の内部ではシナプスの配列と結合のパターンに不可逆的な変化が起こりますが、それは、新たな脳細胞や新たな結合の生成ではなく、使わない細胞及び回路の死滅という形で実現されることが知られています。そのため、私くらいの年になると、これまで苦手だったことが一からできるようになることはまれかつ非効率で、これまでに選択して強化してきた強みを深めて広げていくことに注力せざるをえません。そして、自分で最善の判断が下せない場合には、他者の判断に身を預けざるをえません。そのため、今の私にとって最も必要な「直感」は、自分の直感のオンオフの切替えと、自分の直感をオフにしたときに何を信じるかというメタレベルの直感なのではないかと思った次第です。

そして、このようなメタレベルの直感を獲得することは、社会の変化のスピードが極端に早い現代においては、特に大事なことに思えます。たとえば、1980年代と今とでは社会のあらゆることが変化しましたが、30年間は人の人生の半分にも満たないほどの短さです。変化前の社会における経験を前提として形成された直感が、変化後の社会ではまったく役に立たないこともあるでしょう。このように、激烈な変化がごく短い期間で起こっている今の社会を前提とすると、自分の直感を適切に飼いならすことが、何より必要なことのように思えました。

話は変わりますが、子どもの成長に力を貸したいと思っている父親・母親にとっても、本書は貴重な示唆を与えてくれます。本書では、直感と信念を形成する大事な要素はその人の経験であると喝破しています。しかし、なんとも厄介なことに、人は幼少期には自らの経験を選択できません。幼少期の経験は、養育者から与えられるものが多くを占めます。成長するに従って、何を経験するかを自分で選択できるようになっていきますが、その選択ですら、幼少期の経験が土台となります。つまり、親が子どもに与える経験は、最高の贈り物にも、一生返済を続ける負債にもなりえます。

私もひとりの親として、息子にどんな経験をプレゼントできるだろう、と考えてしまいました。責任の大きさと問題の難しさに圧倒されながらも、自分の創意次第でどうにもなりそうなところがとても素敵だな、と思えました。

こんな感じで、色々な思考をかき立ててくれて刺激的な本だと思います。もし気になったら、本屋へ走ってください。



【定例ミニイベントお知らせ】

LIP教育プロジェクトでは、2ヶ月に一度
「Chance Maker(チャンスメーカー)アワー」を開催しております。
「Chance Maker(チャンスメーカー) アワー」では、
私たちLIP教育プロジェクトメンバーがLIPの活動紹介をするイベントです。
私たちの寄付プログラムについて、活動のあゆみ、
パートタイムで活動することなどをお話します。

開催概要
日時:6月15日15:20-16:50(受付開始時間:15:10)
場所:AT-Garage 東京都港区新橋6-18-3 中村ビル
   http://ow.ly/jEkMH
   http://www.facebook.com/atgaragepjt
   ※御成門が一番近いですが、新橋や浜松町/大門からもアクセスいいです。
◆定員 : 10名程度
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